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かてきょ 6

 「掛けたらどうなるか、わかってるのか?」
  「お願い、かてきょ」
  つよし君の、少しふくらみかけたのど仏がごくりと動きました。小川先生は、頑固なわからず屋のつよし君に投げやりに言いました。
  「よーし、掛けろ。200Xと80X、引かないで掛けろっ」
  「かてきょ!」
  突き放した言い方でしたが、200Xと80Xを掛ける許可を得られ、つよし君はうれしくなりました。
  「えーと、(200×80)X=720を解くと、えー、9/200分。てことは、えーと、2・7秒。速えっっ。2・7秒後に二人は会えるんだ」
  笑顔でそう言うと、先生は険しい顔で言いました。
  「そんな速さで自転車をこいだらどうなる」
  「え?」
  「お父さんの体は溶けちゃうぞっ」
  「あっ」
  つよし君は自分の犯した過ちに気づきました。そして二度目となる、胸ぐらをつかまれながら、
  「貴様、秀樹のお父さんを殺す気か!」
  「僕は少しでも早く二人を会わせてあげたくて…」
  「死んでしまったら元もこもないだろ! 引かなきゃいけないところを掛けたりするからだ!」
  つよし君は茫然となりました。目の焦点が合っていません。
  「とんでもないことをしてしまった…」
  後悔の念を感じ、計算の恐ろしさを思い知りました。計算方法を間違えると大惨事を招いてしまうことを知りました。しかも今回は、未然に防げたのです。自分のわがままから生じた悲劇です。
  「僕が、僕が秀樹のお父さんを殺したんだっ。僕は2回も秀樹のお父さんを殺してしまった」
  「わかったか、感情的になって掛けたりしちゃだめなんだ」
  「ごめんなさい…」
  そう言うとつよし君は立ち上がり、部屋を出て行きました。
  「どこ行くの?」
  「トイレ」
  こちらを見向きもせず、出て行きました。いや、見られなかったのでしょう。
小川先生は、「つよし君はピュアで、とても優しい男の子だな」と思いました。
秀樹のお父さんを殺したのは、もちろんつよし君ではありません。秀樹のお父さんが交通事故に遭ったのもつよし君が生まれる何十年も前のことですし、つよし君の血液を輸血できなくて当然です。2・7秒後に追いつけるほどの速さで自転車をこがせたのも、机上の計算でのことです。つよし君は何にも悪いことはしていません。なのに責任を感じ、胸を痛めています。男の子だから人前で涙を見せるのが嫌なのでしょう。先ほど小川先生の前で声を上げて泣いた手前もあります。きっとトイレで、誰にも見られないよう泣いているのでしょう。そう思うと、小川先生にも熱いものがこみ上げてきました。



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