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かてきょ 4

 「どういうこと?」
  「お父さんは、A君の忘れ物を手に自転車を走らせた。分速200mで。しかしそこに居眠り運転をしているトラックが、…突っ込んできた」
  「ええ!?」
  つよし君の胸騒ぎは的中しました。
  「お父さんはすぐに病院に運ばれて輸血が始まった」
  「血液型は?」
  つよし君は興奮したのか、声をうわずらせて聞きました。
  「確か、A…」
  「一致してるよ。ねえかてきょ、僕の血を使ってよ。ねえかてきょっ。早く!」
  つよし君は混乱し、現在と過去とがわからなくなっているようです。小川先生は静かに口を開きました。
  「もう、遅いんだ。出血がひどすぎて、お父さんは、帰らぬ人と、なった」
  「そんな…。そんな! 嘘でしょ!? 嘘でしょ、かてきょ!」
  今度はつよし君が小川先生の胸ぐらをつかんでいます。興奮しているつよし君に対し、先生は大人だからでしょうか、冷静に徹しています。しかし、叫びたいのは、きっと先生も同じでしょう。
  「ただ、この問2は少し手が加えられていて、お父さんの事故が伏せられている。しかもA君は歩いて出かけたことになっているけど、走っているA君を見たっていう人もいる。またお父さんの自転車の速さは分速220mだったという説もある。ここでは200m説を使っているけどね」
  つよし君には、この文章題が事実をねじ曲げて作られていようが、A君が歩いていようが走っていようが、関係ありませんでした。
  「A君がかわいそう…」
  ただただ、それだけでした。やはりつよし君は優しい男の子です。
  小川先生は、つよし君に「通り魔に遭えばいい」「誤認逮捕されればいい」などと思われているとも知らず、「つよし君はいい子だな」と思いました。

 「この事件のあと、A君はグレちゃってね。何度も警察のお世話になって、少年院にも入ったんだ。それで実名が伏せられているんだけど」
  「だからA君なんだ? そういう事情からなんだ?」
  「でもA君は立ち直った。『こんなんじゃ、お父さんが悲しむ。お父さんに笑われちゃう。見ていてお父さん。俺は、俺はやるぜっ』。そしてA君は高校生の時、ジャズ喫茶でアルバイトしているところをスカウトされ、広島から上京するんだ。そして見事、デビュー曲がスマッシュヒット。その後もヒットを連発し、今じゃドラマにコンサートに大活躍だ」
  「すげえー! すげえーA君!」
  「ま、それが今の西城秀樹ってわけさ」
  「え!? これ、西城秀樹の話なの!?」
  「ああ」
  「知らなかった…。秀樹にこんな過去があったなんて…。頑張ったんだね、秀樹」
  「秀樹ほど、数学の文章題沙汰になったスターはいなかった」
  遠くを見つめながら、小川先生は言いました。つよし君はその姿に男のかっこよさを感じつつ、「私生活まで文章題にされるなんて、芸能人にプライバシーはないんだな」と思いました。



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