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かてきょ 1

 「はあ」
  いつもは元気なつよし君が、今日は何だか元気がありません。そう、家庭教師の先生が来る日なのです。
  「あーあ、家が火事になんねーかなー」
  家が燃えたらさすがに中止だろうとつよし君は思いました。かといって、つよし君はその先生が嫌いなわけではありません。今日教わる科目、数学が嫌いなのです。数字を足したり引いたりはもちろん、掛けたり割ったり、もう数字自体見るのも嫌なのです。そこでつよし君は、家が火事にならないかなあ、なんて思ったのです。つよし君も中学1年生なので、そんなことになったら失うものの方が大きいことは知っています。でもつよし君はついつい数学を勉強しなくてすむ方法を色々と考えてしまいます。
  「あーあ、先生、通り魔に遭わないかな」
  「先生、誤認逮捕されないかなー」
  今日の授業がなくなるのであればと、つよし君の頭の中はどんどんエスカレートしていきます。
  「あっ、先生の家が火事になればいいじゃん! 誰か火つけないかなー」
  「うちに来る途中、宇宙人に…」
と、思ったところでつよし君は先生に申し訳ない気持ちになりました。
  「そんなことになったら先生がかわいそうだ」
  つよし君はやさしい心の持ち主です。
  「ま、誤認逮捕がギリギリかな」
  などと考えているうちに、もうすぐ家庭教師の先生が来る時間です。すると玄関の方から声が聞こえてきました。
  「こんばんはー。家庭教師のギブアップから参りました小川です」
  いよいよ先生がやって来ました。
  「あらこんばんは。今2階にいますよ」
  つよし君のお母さんが応えます。
  「失礼します」
  と言って、小川先生はつよし君の部屋に向かいました。
  小川先生は「家庭教師のギブアップ」から派遣されている二十代後半の大学生です。つよし君は小学校5年生の時から小川先生に教わっています。小川先生は優しくて、正義感にあふれていて、つよし君は小川先生を、「まあ嫌いじゃないかな」ぐらいに思っています。しかし最近つよし君は、小川先生の派遣元について、少し疑問を抱くようになりました。

 「ギブアップって、いいのかな」

 中学生になり、英語を習い始めたつよし君は、言葉の意味がわかるようになりました。また、この派遣元のうたい文句である、「偏差値40以下は中学浪人」というのにもひっかかるものを感じています。
  「偏差値40って、頑張れば何とかなるんじゃ…。というより、それを何とかするのが家庭教師の仕事じゃ…」
  確かに家庭教師業界も競争が激しく、他社との差別化が必要となりますが、偏差値40からの中学浪人をうたう家庭教師のギブアップは、社名もコンセプトも他社と一線を画すところがあります。しかし、「何か間違っているような」 そんな思いがつよし君を覆います。まあでも、小川先生は熱心に教えてくれますし、とどのつまりは家庭教師本人がどうなのかなのでしょう。つよし君もお母さんもそれについては、いつのまにかどうでもよくなっていました。
  さて、小川先生がつよし君の部屋に入って来ました。



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