ヒコウボーイ 10 |
「お前、母さん殺したじゃねえかよ」とは言えなかった。父は黙ってしまった。ひろしの言うとおりだった。自分からは妻に話しかけない。目も合わせるのも億劫になって、これじゃいけないと思いながらもついつい接触を避けてきた。無関心を装っているうちに本当に関心が無くなってしまった。妻が作ってくれた食事を食べる時も無言だ。食べ終わっても何も言わない。息子にも反抗期を理由に無理な干渉は避け、あたり障りのない言葉を並べ、表面的な部分しか見てこなかった。
息子の言葉に目が覚める思いがした。「母さんを殺したお前に言われる筋合いはない」という気持ちは拭えなかったが、父親としての在り方を反省させられた。言われてみれば、ひろしの言うとおりに長所に目を向けなければなるまい。悪かったのは俺のほうだと。
ふたりとも黙り込んでしまったため、静かな空気がダイニングに流れ出した。テレビの上やテーブルの上、そして壁にかけてある時計がそれぞれの秒針のリズムで不揃いに時を刻んでいく。
「ひろし、すまなかった」
父は息子に深々と頭を下げた。
「父さん・・・」
「許してくれ」
その気持ちが本気かどうかは、人には敏感に伝わるものだ。
「俺の方こそ、母さんをこんなふうにしちゃってごめん」
父の心に、反抗期とは思えぬ程、ひろしも素直になれた。
「気にするな。これからは親子ふたり、力を合わせて仲良く暮らしていこう」
「うん!」
ひろしがはにかみながら同意した。家族の変わり果てた姿がすぐそこに横たわっている、という困難極まる状況をはねのけ、奇跡的に分かり合えた。ふたりはどちらともなく、首から上がない横たわる母を見つめた。思い過ごしかもしれないが、母が微笑んでいる気がした。
「それじゃあ、父さん、警察に行って来るよ」
「え?」















